- 線を数日だけ過ぎて高い料金を払った人は、次に戻る率が少し下がっている形が出た(71%と85%)。ただし人数が少なく、偶然と区別はつかない。
- それでも半年の売上は1人約9,400円と約9,300円で同じ。1,000円多く払うぶんが、戻る回数の減りを埋めていた。だから線はそのままにした。
- 同じ日数でも、店で次回予約を入れた人は安い料金のままで、戻る率は89%と高かった。ただ料金とお客様の違いも重なっていて、予約の入れ方の効きとは言い切れない。
確かめたかったこと
まつげの店では、まつげパーマを「初回 2,990円」「2回目が1か月以内なら 2,990円、過ぎたら 3,990円」にしています。早めに戻ってもらうための線です。
気になっていたのは、線を数日だけ過ぎた人です。32日目に来て「あと数日で1,000円安かったのに」と思った人は、次に来なくなっていないか。値引きで呼んだお客様を、線で手放していないか。
マーケティングの研究には「いったん上の扱いを受けた客が下げられると、最初から上がらなかった客より離れる」という結果があります(下の出どころ1)。それが自分の店でも起きているかを、会計の記録で確かめました。
数え方
線ができた後(2回目が2025年6月以降)に2回目に来た新規のお客様213人を、2回目までの日数で分けました。そのうち78人(37%)が、線を過ぎて3,990円を払っています。
見たのは「3回目に来たか(2回目から180日以内)」です。ホットペッパーから自分で予約した人どうしで比べました(店で次回予約を入れた人は、日数にかかわらず2,990円のままなので混ぜると比べになりません)。
もうひとつ、線が無かった頃(2回目も2,990円だった2025年4月まで)の同じ比べも出しました。「もともと遅く来る人は、戻りも弱い」だけなら、線が無い頃にも同じ差が出るはずだからです。
数字:3回目に戻った率
人数:線の後 27人・21人/線の前 23人・56人。180日追えた人だけで数えています。
線が無かった頃は、29日以内も32〜45日もほぼ同じ(87%と84%)。線ができてからは、32〜45日の人だけが下がっています(85%と71%)。差の差でおよそ11ポイント。「あと数日で安かったのに」が少し効いている形です。
ただし、統計の検定では偶然の範囲を出ていません(p=0.30)。人数が21人では、言い切れる差ではありません。もうひとつ、46日以上空いた人には下がりが見えませんでした。落ちているのは「惜しかった」帯だけで、研究の形とは合っています。
お金で見ると、差は消えた
戻る率だけで止めていたら、「線をゆるめよう」と決めていたと思います。でも線を過ぎた人は、1回あたり1,000円多く払っています。2回目の翌日から半年の売上を、1人あたりで並べました。
| 2回目の来方 | 3回目に戻った | 半年の売上/人 |
|---|---|---|
| 32〜45日・3,990円を払った | 73%(11/15人) | 約9,400円 |
| 29日以内・2,990円 | 78%(29/37人) | 約9,300円 |
| 32〜45日・店で次回予約を入れて2,990円のまま | 89%(16/18人) | 約9,800円 |
この表は予約の経路を分けずに数えています(上のグラフとは数え方が違います)。
線を過ぎた人と期限内の人で、半年の売上はほぼ同じでした。線をやめた場合も計算すると、1,000円多くいただく分が消えて月に6,000〜9,000円ほど減ります。線を数日過ぎた人の戻りが落ちて失っている分は、月2,000〜3,000円です。線は残すほうが得でした。
いちばん高かったのは「店で次回予約を入れた人」
いちばん大きかった気づきは表の3行目です。同じ32〜45日に来た人でも、前回の会計で店が次回予約を入れていた人は2,990円のままで、戻る率は89%。同じ日数でも、料金が上がるかどうかは「自分でネットから取ったか、店で入れたか」で決まっていました。
ただし、この2つの組は料金も違い、店で次回予約を受ける人はもともと通う気持ちが強い人かもしれません。予約の入れ方を変えれば戻る率が上がる、とまでは言えません。
もうひとつ。一度3,990円を払った人のうち3回目に来た41人は、半分(21人)が46日以上空いていました。一度線を過ぎると、線を気にしなくなるようです。
そこで私たちが次に打つ手は、料金ではなく会計の場の一言です。
「次は1か月以内なら2,990円に戻ります。◯月◯日ごろまでです。今日ご予約を入れておきますか」
研究でも、下がった扱いを取り戻す道を見せると、離れが和らぐとされています(出どころ1のStudy 3)。お金のかからない手なので、効くかどうかを数字で見ながら続けます。
期限つき料金を出している会社の方へ:確かめ方
- 戻る率は「線の手前と、少し後ろ」で比べる線を過ぎた全員で比べると、ずっと来なかった人まで混ざります。惜しかった帯(線の後ろ2週間ほど)だけを見てください。
- 線が無かった頃と並べるもともと遅く来る人は戻りも弱いことがあります。線の前に同じ差があれば、線のせいではありません。
- 最後は半年の売上で決める戻る率が下がっても、1回の単価が上がった分で埋まっていることがあります。率だけで線をゆるめると、売上を手放します。
この結果の限り
- まつげの店1店・人数は21人。差は方向の目安で、大きさはあと半年で人数が増えてから見直します。
- 線の前と後で、スタッフや次回予約の取り方も変わっています。経路をそろえて比べましたが、違いを全部は消せていません。
- 国内で「初回価格→通常価格」で再来がどう変わるかを直接測った調査は見つかりませんでした。
出どころ
- Wagner, T., Hennig-Thurau, T., & Rudolph, T. (2009). Does Customer Demotion Jeopardize Loyalty? Journal of Marketing, 73(3), 69–85.(下げられた客の再利用意向は、一度も上げられなかった客より低い。小売の実地データで、降格後2年の売上−17.9%)
- Anderson, E. T., & Simester, D. I. (2004). Long-Run Effects of Promotion Depth on New Versus Established Customers. Marketing Science, 23(1), 4–20.
- UNELMA まつげ1店の会計記録(2024年8月〜2026年9月)。個人が分かる情報は載せていません。